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2005年4月23(土)〜24日(日)

ブナを植えて

ブナ植樹の様子

富士山の植林地でブナの苗木を植えた。
富士山の植林地とは、山の自然学クラブが森林復元活動を実施するために提供を受けた国有林の一部区域である。静岡県がボランティアによる植裁を行ったが、その後、数年間手をかけなかったために、荒れたままになっていた場所だ。「誰でも自由に参加してください。フィールドが確保できたのだから、やりたいことがあったらアイデアを出し合って、大いにチャレンジしましょう。」という大森理事長のコンセプトに乗っかって、クラブの会員でもないのに、調査や種まき、草刈りなど、もう何度も現地の作業に参加させていただいている。
今回はブナの植樹だという。おととし2003年の秋に、植林地より少し上、西臼塚の森で採取した種から、東京農大の学生さんが1年間育ててくれた苗木を植える。ブナは10年に1度くらいしか良い種をつけないそうで、それを根付かせる試みといえば、めったにできない経験だ。責任重大。東京農大OBの中村さん、その師匠である福永先生に教えを乞いながら、山の自然学クラブ会員の皆さん、研究室の学生さんとともに汗をかいた。

一日目、2週間前に研究室から運び込んでおいた苗木が元気かどうかをまず確認。土に穴を掘って、一カ所にまとめて仮植えの状態にしておいたのだが、思ったより日当たりがよく、少し葉が出ているものが何本かあった。葉が出てから植え替えると苗木に負担がかかってよくないらしい。動物の赤ん坊と同じで、ブナも小さいうちは生き残るのがたいへんだ。

ブナも独りでは寂しいらしい

実際の植樹は翌日。晴天である。宿泊した帝人の富士教育研修所からも、現地からも、まだ白い雪が多く残った富士山がくっきり見えた。ここへはもう何度も来ているが、これまでになかったことだ。このあたりは夏になるともやが出て、一日中ほとんど富士山を拝むことはできない。
敷地の中でも標高の高いところに植樹場所を設定してあったので、そこまで全員で、苗木のほか、スコップ、金網、杭に使う間伐材の枝などを運び上げる。
二人一組になって、スコップで穴を掘り、そこにブナの苗木を4本1組でまとめて植える。「密植」といい、1本づつバラバラに植えるよりも、生き残る可能性が高いらしい。助け合い、競争しあいながら、そのうちの少なくとも1本は、風や菌、虫、動物などに負けることなく成長するということか。密植では根の張りかたが横にもひろがり、互いに絡み合って強くなるとも聞いた。

植えたあとは、根が土とよく馴染むように周囲を軽く踏み固める。踏みすぎは根を傷めるのでだめ。踏んだところが凹んでしまっては、水が溜まって腐りやすくなるので気をつけなければ。日当たりは悪くないように。土が乾かないように表面を枯れ草などで軽く覆う。ねずみやもぐらに食べられないように、周りに杭を立てて金網で周囲を囲う 。目印となる竹竿を脇に立てて、一カ所の植樹が完成する。

しかし、やってみると、いろいろ判断しなくてはいけないことがでてきて、あーしたほうがいい、これはちがうだろう、などと参加者は真剣に悩む。例えば植える場所の下に石があったらダメなのか(正解:そんなことはない)、隣で植えた苗木と近すぎないか、斜面に近いところは避けた方がいいか、すすきの脇は不向きか、岩の脇は? 金網の高さは? 金網の上は閉じたらダメ? 苗木を少しナナメに植えてしまった気がするÅc どうも隣のチームのほうが上手い気がする!
私は、金網の上部を外側に曲げて、万一ネズミが金網をよじ登ってもオーバーハングで防げるようにしたし、金網の下部は土に食い込むように外側に曲げてその上に石を置いた。少しでもネズミをくい止められるように(本当に役に立つ?)、土の乾きを防げるように。昨晩の福永先生の講義で、アフリカ(ジプチ共和国)での砂漠緑化では、種を蒔いた場所に石を置くだけで水の蒸発を抑制し成功率がまるで違うという話を聞いたのだ。だが、今思う、富士山は砂漠か? と。

自分の苗木はかわいい

やってみて面白いのは、自分が植えた苗木にはぜひともちゃんと育って欲しいという、過保護の親みたいな気になること。「ねずみに負けるな」「他の木に負けるな」という、プチなエゴ。
自然はなるべく自然のままに推移するのがいいのであって、木を植えるという行為でも、まるっきり人間の思い通りにしようというのはおこがましいことなのだろう。あくまで、そこの環境全体が良くなるお手伝いをするくらいの感覚がいい。
自然の現場で、手足を動かして作業を体験すると、こんなことにも自然と考えが及ぶ。講座で勉強するのも大切だが、実地体験では、思いもかけない発想をする自分や仲間を発見できるのが面白い。
そう、たまには「書を捨てて、山へ出よう」である。

玉國和浩