6冊の会報から得たこと/大森弘一郎
「山から始まる自然保護」という私たちの会報が今度で7号を迎えました。会報ですから会員のために作られていますが、見直してみると、その中にはどなたにも読んで戴きたい、貴重な原稿がいくつもありました。 そこには私たちがお伝えしたいことを、多くの先生方が色んな切り口で述べておられるのです。それを今読み返しながら、門前の小僧の考えをまとめています。これには共にやる仲間が増えてほしい、その気持ちも込めています。
「学んで知るを楽しむ人、それを活かして活動して喜ぶ人、それを助けて満たされる人」の集まりというのが私たちの基本姿勢なのですが、実は知るという、方向を定める役の自転車で言えば前輪の方が、ともすると大きくなると言うのが現実です。身近な自然から地球環境までの、自然を守る活動の、力とスピードをだすはずの後輪が小さくて弱いのです。知識は進路を作るために役立ちますが、後輪が力をもっと出したいと思っています。
山登りをされる方も、関心のない方も、私たちは自然の中に住んでいます。この私たちが住む地球環境が、山の影響を大きく受けて成り立っていることはご存じだと思います。山と接する私たちは、地球の変化を最も身近に感じることが出来る立場にいます。
柔らかくて丸い地球の海洋地殻の上に浮かぶ陸地。それは地球の表面積の3割ですがそこの表面に私たちは住み、その表面の小さなでこぼこである山は、薄い空気の層の中に立ちはだかっています。山には森林があり、生物が住み、岩や砂や土壌があり、太陽の光の吸収がされ、雲を作り、風を生み、水が流れ下ります。
山は人の好ましい生活を作り出すために大きな役目を持っているのです。 地球を知るには山から始めるのが近道です。その山を中心として自然の理解を進めましょう。それに私たちの会報と会をお役立てください。それを通して次は私たちの大切な地球、温暖化の傾向にある地球、この循環の調子を整えるにはどうしたらよいか、ご一緒に考えて、何かをしたいと思います。
地球は荒漠とした暗くて広い宇宙に浮かぶ、生命を育むことの出来るオアシスのようなただ一つの星です。46億年前に誕生したと言いますが、太陽の周りを回っていた星屑がお互いの引力で引かれて集まり、ぶつかり合い、高温になり、柔らかく融けて引力で丸くなったもののようです。そのときの様子を見た人は誰も居ません。これは理論と証拠の発見から引き出された正しそうな解ですが、今の地球が我々にとって掛け替えのないもの、掛け替えのない環境であることは、誰もが知っている事実です。
その地球がどうしてかけがえのない我々の星になり、私たちが今そこに住んでいるのか、この不思議を思います。 宇宙は広大ですから、このような星はどこかに有るかも知れませんが、そこに人が生きている時間のうちに行くことは出来ません。
今の地球の姿を数字で整理して見ましょう。わかり易く上2桁にします。直径は1.3万km、周長は4万km、体積が1.1兆km3で表面積は510億ha。比重は5.5で、重さは60京トン。 海の面積は7割、海の深さの平均は3800m。陸の面積は150億haで高さの平均は870m。出来たころは熱くて、H2Oは水という液体でいることが出来ずにガス(蒸気)で存在し、そのうち表面が冷えて水が出来るのを待って生物が誕生しました。表面の熱は宇宙へ放散されたのです。今は丁度良い温度になり、太陽から受けるエネルギーと放散とがうまくバランスしていて、私たち生物が住んでいます。
太陽系を並べた水金地火木土天海冥のなかで、火星は遠すぎ、金星は近すぎて、地球の近くの軌道上だけに水が液体の水として存在出来るのだ、ということも不思議な意味を感じます。これからものを考えるには、時間の物差しが必要になります。時間の流れの中のいつ頃にあったことか、ということです。プレートの移動が分かっているのは5億年昔、エベレストの上昇が始まったのが5000万年昔。 氷河期は数10万年から2万年昔、我々の先祖のホモ・サピエンスが記録を残したのが5万年ぐらい昔、西暦が始まった時の2000年昔の人々の生活を想像してください。産業革命がわずか200年昔です。
「昔」と言っても10億年前と百万年前と千年前ではそれぞれ1000倍違うのですが、その時間距離は頭の中でなかなか機能してくれないのです。百万年の中には1000年の出来事が1000回詰まっているのですが、その実感を持つことは中々出来ません。百万円が千円の1000倍だと言うことは掴み易いのですが、遠い過去の時間は「昔」という言葉の中に簡単にくくられてしまうのでしょう。それをまず実感し易くしておきたいと思います。 時間を距離(長さ)に置き換えてみます。 地球が生まれて46億年と言うのは都合のよい数字ですから、近い数字の地球の周長の4万kmに置き換えて(6億年をまけてもらって)考えて見ます。4万kmと言うのはもし1日に10km歩いたとしたら4000日、大体10年で行ける距離ですから、これは実感出来る数字だと思います。(人によって違いますが、大体一生に歩くぐらいの距離です)
40億年を地球の一周の4万kmとすると、1億年は1000km、東京駅に居る自分を中心に考えると長崎ぐらい。ユカタン半島に隕石が落ちて恐竜が絶滅したりヒマラヤの造山が始まったころは4500万年前で450kmの神戸ぐらい。 1千万年は100kmで三島。百万年は10kmで品川(百万年前という単位は地質研究の分野でMaとして良く使われます)。1万年は100m、氷河期や人類の発生を考える時に良く使われる数字。1000年は10m、100年は1mでほぼ人の一生の長さです、1年は1cm・・・。
もう一つの基本的な数字を。地球から月までの距離は38.4万kmで、月は地球の直径の3/11で重さは1/80、太陽までの距離は1.5億kmで、光で8分ぐらいかかります。どちらも地球から見える角度は32分(0、53度)です。 地球上に降り注ぐ太陽からの電磁波エネルギーは電力換算で170,000テラW(17×10====W)。 太陽から地球に降り注ぐエネルギーの1時間分は、丁度人間が消費している1年分のエネルギーに相当すると言います。1m==に降り注ぐエネルギーは場所によりますがだいたい1kWです。人間の使用しているエネルギーは、降り注ぐ太陽エネルギーの1/1万ぐらいだと言うことになります。
太陽系の大きさは、海王星までの距離が、地球と太陽の距離(1天文単位と言います、1.5億kmです)の約30倍で光が届くのに4時間ぐらい。遠い恒星までの距離を〇〇万光年という単位で言いますが、これはそこから光が届く時間で、1万光年は光が1万年かかって届く距離ですからどれ程遠いかお解りでしょう。1光年は約10兆kmです(正確には9.5兆km)。1光年は海王星までの距離の2000倍です。 この辺の数字を時々思い出して、本文の内容をお読みください。そうして全体像の中のご自分の位置をはっきりさせて、地球に住む者としての理解に組み込んでくだされば良いなと思います。
地球起源 | ||||||||||||
46億年 | 10億年 | 1億年 | 1000万年 | 100万年 | 10万年 | 1万年 | 1000年 | 100年 | 10年 | 1年 | 1月 | 1日 |
4万km | 1万km | 1千km | 100km | 10km | 1km | 100m | 10m | 1m | 10cm | 1cm | 1mm | 30μ |
「その昔」と言っても30億年ぐらい前は酸素は無かったようです、酸素は地殻を作っている物質を酸化して、吸収されていたのですね。この頃既に酸素無しで生きられる原始的な細菌がいて、4億年ぐらい前にオゾン層が出来て生物に有害な紫外線が遮られるようになって、植物が苔になって地上に現れます。シダ類もそのころ。2億年ぐらい前にイチョウ等の裸子植物が現れます。動物の餌はまず植物で、多分恐竜の食料はこれであったでしょう。イチョウの種(つまりギンナン)を食べて運んだのは恐竜だろうという学説もあります(上田恵介先生)。 前の号をお持ちで無い方には申し訳ないですが年代順に主な記述を並べます。私たちはこのような長い年月の中を小さく割りながら理解して来ました。号を追うごとに、森林の復元や、各種の活動の報告が増え、知識が役立ちつつある姿を見ることが出来ます。 それぞれの年代に何があったか、そうして今が生まれた。それを全体で考え、そしてどうしたら人間の生存の道を先に延ばせるかを考えるのにお役立て下さい。