ネパールの蝶/齋藤太増光
今回、当クラブが参加した、ネパール国交樹立50周年記念行事の秋葉原コンベンションホールにおける2006年9月16日〜18日のセレモニーに、ネパールの蝶を出品出来ないかとの依頼を受けました。私は蝶の調査を行ってはいますが、タイ、マレー半島、スマトラ、ボルネオ、バリ、ジャワといった主として東南アジアが中心であり、ネパールの蝶については全く知識も標本も持ち合わせておりません。そこで常日頃出入りしている(財)進化生物学研究所の青木俊明氏、山口就平氏に協力を仰ぎ、研究所所有コレクションであるネパールの蝶、それも標高4000〜5000mの高山に生息する「ネパールの高山蝶」の標本を借りて来て展示することが出来ました。
写真は、壁面を飾ったエベレストの写真の下に標本を(春田先生の標本と共に)並べてある状況であり、その中から選んだアンナプルナ周辺の標本写真です。
ネパールの蝶については見識もない私ですが、今回展示した物についていくらかの説明をさせていただきます。
日本では高山蝶は、北アルプスや大雪山に生息しています。ネパールには約30種が知られています。今回展示した高山蝶は西から、アピ・サイバル山群、ダウラギリ山群、アンナプルナ山群、エベレスト山群、カンチェンジュンガ山群で得られたものです。高山帯へのアプローチが長く、蝶の発生時期がモンスーンの影響を強く受けて悪天候の日が多いため、そこに生息する蝶は大変得がたいものなのです。採集時期は6〜8月の限られた時期であり、その時期は毎年ずれる事が多く必ず採集できるとは限りません。
ネパールの地形はかなり標高の低い地域から、8000mを越える高地まであ
り、その気候は亜熱帯から寒帯、万年雪地帯(極帯)まであります。当然亜熱帯に生息するものから寒帯に生息すものまで多岐にわたる蝶が存在するわけで、わが国よりの調査隊の報告にもありますが、そこには日本との共通種も多くて親しみやすいものも多く生息しています。
高山の蝶も日本との共通種はいませんが、日本の高山蝶とは似たものが多く見
かけられます。しかし長年高山で隔離された状況で生息しているので、独自に進化しており、共通種はおりません。ネパールの大部分が農耕、放牧といった人為的な要因で本来の環境が変化している中で、厳しい自然が故に高山の蝶はしぶとく生き抜くことでしょう。
今までネパールの蝶については、あまり意識していませんでしたが、この機会にいろいろ調べたところ、私の専門分野にもかなり役立つ情報が多く隠されていることが解り興味を持つことになりました。
せっかくの機会ですので、日本での私の活動を述べさせていただきます。それは蝶をシンボルとして、自然環境の保全を進めている「NPO日本チョウ類保全協会」の活動に携わっていることです。
現在絶滅を危惧されている蝶は、殆どの場合我々の生活スタイルの変化による環境の変貌によるものです。農地の荒廃、里山の放置、放牧の中止、針葉樹の植林、スキー場、ゴルフ場、別荘の開発などがその原因になります。これから昔の生活に戻ることなど出来ませんが、本来の環境に少しでも近づける事が絶滅を防ぐことになります。人の生活の多様性の中、環境変化の指標ともなっています。
それら絶滅の危機にあるチョウ類の保全活動やチョウ類の調査を進めているほか、保全に関する広報・啓発活動も行っています。この機会に私も当クラブの活動に啓発されて入会することにしましたが、会員の皆様にもチョウ類の保全活動にご賛同下さる方がおられたら、こちらにも是非ご入会下さい。(143−0025 東京都大田区南馬込4−45−6)
in50への参加/大森弘一郎
今年は日本とネパール国との国交が樹立して50年の年で、これを機にネパールと縁の有る活動をしている約80の団体が日本ネパール国交樹立50周年記念協力会、略して jn50というのを作り、9月16〜18日には、秋葉原のコンベンションホールで、多くの団体が一緒に「ネパールがやって来た」というイベントをやりました。
私たちも、多くの会員が参加して、ここでヒマラヤの写真や椿植林に関する展示や後援して下さった(株)椿の製品販売をしました。
6月11日には大井町駅前のきゅりあんという小ホールで、酒井治孝先生のヒマラヤの上昇の話、岡本マルラ有子さん達の地域ごとのネパールダンス、サキャ・プルナ・ラタナさんによる自然と民族の話、と内容の濃い講演会(聴衆は140名)を行いましたが、この講演会、秋葉原の催しと私たちもこの記念の年に、少しは活動出来たと思っています。このネパールの蝶も会場で多くの注目を集めていました。