立山と弥陀ヶ原の面白感想/大森弘一郎

 面白いと言う意味は、貴重な体験が詰まっていたということです。それを主催者の立場で書いておきたいと思います。

 梅雨が明けるはずの時期に小泉武栄先生と熟考して(?)日程を定めました。バスのみ通行可能な高原道路を自由に走るという、東京から中型バスでの3日行でした。
 一日目、八王子を朝出て一路高速道路で立山へ。高原道路に入ってからは道草を食いながらゆっくり展望立山荘に入りました。火砕流の上に泥炭がたまり、点在する池溏が素晴らしかったし、ちょうど天気も良くなり、梅雨も明けて明日の好天が約束されているような気がしました。

 2日目の朝、期待と予想に反して空は曇り、遠くでゴロゴロという音。積雲が西の富山湾の方向に見えます。松田勉(富山雷鳥研究会会長)さんが上がって来てくれてすぐ出発しました。

 浄土山に登る途中に不思議な穴の開いた地形がありました。室堂山から見えるカルデラ崩壊による重量バランスの変化で、このような地形が出来たのだろうか、そんなことを考えていました。
 浄土山への岩塊斜面にできた急な登りは岩が安定していて不安が無く、頂上には富山大学の観測所がありました。

ここの由来ややっていることを聞こうと考えながら飯を食っているとき、松田さんから雷鳥が砂浴びしているよの声、リュックから出したものもそのままに、口も締めずに走っていきました。竜王の方に行く道の途中で気持ち良さそうに雷鳥が砂浴びをしていました。何とか工夫をして先回りし、一番近寄れたのが下の写真です。

 雄山に滝雲になりそうな雲がかかり、剣に黒い雲が乗り、朝の雷を思い出しました。しかし日差しは強くなり、好転するかもしれないと希望的観測をしていました。浄土の下りも雪渓、巨大な岩塊、不思議な窪地などがあり、噴火か氷河期の影響かと考えるだけで楽しかったです。尾根を挟んで西側は風衝地形でイワツメクサ、コケモモ、ミヤマキンバイ、イワギキョウなど、東側はクルマユリ、ヨツバシオガマ、ハクサンボウフウなど豊かな花畑が広がっていました。

 一の越から状況は一変します。私たちの試される時が近づいて来ていました。これからの天気に不安は有るものの、そう急変するとは思っていませんでした。雄山に登って東の氷河地形を見たい人は小泉先生と、もう満足した人は松田さんと私との二つのグループに分けました。彼らが出発して10分もしたらポツリと来ました、さらに10分程したら雷がバリン。登頂路には空との境に人が並んでいます。バリバリ言うたびに乗越しの小屋の中から心配になって見上げていました。
 引き返して来るであろう上の隊を待ちつつ雨と雷が休んでくれるのを待ちます。学校登山のグループを引率して引き返している佐伯さんの動きを松田さんは見ています。彼が動けば大丈夫の合図だと考えているのです。私は松田さんの判断を待っています。気まぐれな雷のそばにいて、雷の気持ちが判る人を当てにしているのだから無責任な話ですが。この辺のことは写せたのに写真が有りません。場面があまり美しくなかっからか、心に遊びが無かったからか。

 雷が一休みした時、このチャンス!と動きました。ところが下山を始めたらまたバリバリときました。ピッケルに落ちたら大変と、周りの人には「俺から離れていろよ」と言います。これは落雷したとき、前後の人は跳ね飛ばされるだけで助かっているケースを思い出したからです。手に持っている愛用のピッケルの尖った先を上にして、落ちるならここに来いと思ってみたり、やっぱりいやだなと尖った方を下にしたり。
 そんな風にして室堂山荘の近くまで下りました。上を見ると山の霧が晴れ、真砂岳の稜線を人が歩いているのが見えます。我々の上に行った隊と同じ人数です。そのコースは初めから行かないことになっていましたが、一度話題にしたこともあり、まさかと思いつつ、一度良くなった天気に騙されないことを願いました。

 室堂山荘の近くに昨日まで雷鳥が営巣していた巣が有りました。人を恐れない雷鳥が人のそばを安全だと思って営巣することはすごく面白いと思います。もしかしたら人のそばが天敵から安全であることを知っているのかもしれません。

 ホテルで待機している自家用バスを呼びに、一人が先にバスターミナルへ行ってくれていました。私たちが着いてターミナルに入り、我々のバスの乗り口まで行くその数分で事態は急変したのです。土砂降りの雨が強風で渦になって巻き始めました。すぐ目の前のバスまで飛ばされそうで行けないのです。そのときバスは風に煽られて揺れていたそうです。上の人達のことが心配でした。今どこで何をしているか。
 ようやくバスに逃げ込み、雨と霧の中を立山高原ホテルまで帰り、ともかく上の隊からの連絡を待つことにしました。松田さんも救助の方法を考えていました。私ももう一度ずぶ濡れになる覚悟をしていました。ホテルに着いて少しして、上の隊からの無事着いたとの電話をうけ平久運転手が受話器を握り締めていました。ターミナルに迎えに行って全員バスに収容して、無事終わったのです。

 その夕方、山は美しく染まり、先程の暴れようがうそのような、美しい姿を見せてくれました。

 3日目はやはり早朝に大雨。そのための通行止めなどに会いながらも、称名の滝の増水を見て、立山カルデラ砂防博物館により、雄山神社、白川郷を通って、長野、糸魚川、立山、富山、白川郷、高山、安房トンネル、松本、と北アルプスを反時計回りに一周して八王子に帰ってきたのでした。

 私たちは自然学の体験を多くの人にしてもらい、自然保護の重要さの理解を広めようとしています。だから多くの人が参加出来る企画を工夫して、広く呼びかけて実行します。それゆえに、経験もまちまちの隊にならざるを得ません。しかしそれを安全にクリアーして進めることをやらねばならないのです。自然を学ぶということは、現場に行ったときに大きい体験があるものですが、今回は厳しい自然に遭遇してさらに貴重な自然の体験をさせられることになりました。

 今後のために、もっと隊の力を強くするために、仲間の指導者のレベルをさらに上げ、行事に指導者を多く加え、小さいグループをたくさん作って全体を構成したいと思います。自然は正に先生です、自然学はそれを学び生かすのですが、その様々な姿に会いに今後も行きたいと思っています。

 参加者の感想もご覧下さい。また会員の高橋信弘がプログに見たものを載せています(「のんき草・みどり見て歩き」)。花の好きな方にはこれも面白いですからぜひご覧下さい。同じ所にいても、主催者と参加者の考えることの違いが判って面白いでしょう。